医師 森 志乃

患者さんの苦しみを和らげることができる
医師を目指して

まずは麻酔科を選んだ

リハビリテーション医学・医療とのご縁は大学4年生の頃、私の1年間の指導教授にリハビリテーション科の才藤栄一先生が偶然当たったところから始まりました。リハビリテーション医学・医療に興味を持った私は、現在も続いている藤田医科大学の「医学生・研修生のためのリハビリテーション体験セミナー」に参加しました。医師が障害を診て、療法士さんを含めたスタッフと活動に介入し、生活という視点から患者さんごとの人生に寄り添ったマネージメントを行う。私のぼんやりとした理想像であった「患者さんの苦しみを和らげることができる医師」とはこういう姿もあるのか、こんな医療もあるのか、と大変衝撃を受けたのを覚えています。

リハビリテーション科に興味を持っていた私ですが、研修医の2年間のローテートで沢山の魅力的な科を経験し、決断できずにいました。そんな中で進路を決断する一番の決め手は、やはり「苦痛を緩和することができる医療」でした。3年目からのリハビリテーション科専攻も大変迷いましたが、ICUのような超急性期管理がしてみたいという思いもあり、ペインクリニックという苦痛の緩和に直結する側面も魅力的で、麻酔科医になることを決めました。麻酔科医としての勤務は大変ながらもやりがいがあり、楽しかったです。しかし一方で、患者さんとコミュニケーションをとる機会の乏しさに一抹の寂しさを覚え、生涯携わるならばもう少し腰を据えて患者さんと接することができる職業がいいな、という気持ちが湧いてくるのも感じました。医師として、個々の患者さんの生活に向き合い、寄り沿う医療。そんなリハビリテーション科医の仕事がクリアには想像できないながらも憧れと高揚感を感じ、転科することを決めました。

実際に転科してみて 忙しいが楽しい毎日

転科して1年目は、飛び交うリハビリテーション科ならではの専門用語をメモしては後で調べるということの繰り返しでした。療法士が行なう評価や実際の訓練内容も、医師として治療プログラムを組む以上、当然どんなものか知っている必要があります。訓練場面に張り付いて代わりにやらせてもらったりしていると、いくら時間があっても足りない毎日でした。忙しかったですが、自分の患者さんが自分のチームで良くなっていく姿を見て、どんどんリハビリテーション医学・医療にのめり込んでいくのを感じました。

脳卒中で片麻痺になった患者さんがどうやって再度歩けるようになるのか、脊髄損傷で四肢麻痺になった方がどのようにして再度自宅で生活を送れるようになるのか、高次脳機能障害の症状の奥深さ、機能・能力の障害を治療すること、完全には治癒しない障害を抱えた患者さんが、いかにして幸せな生活を送れるようになっていただくかを考えること、これらは大変やりがいのある仕事で、やはりとても楽しいものでした。そして療法士や看護師、介護士を始めとしたスタッフ全員と一緒になってチームとして試行錯誤し、一喜一憂することは他の科では味わえない魅力であると思います。

リハビリテーション科医とは

学生の頃の私はリハビリテーション科医の医師としての役割は何であろうか、きっと重要であるに違いないと思いつつも、十分には理解できていませんでした。例えば脳神経外科医や整形外科医の役割と言えば学生の皆さんは手術、と言える思います。けれどもリハビリテーション科医であることの立ち位置が何かとは、いわゆる「病理的な医学」をずっと学んできた学生には非常に分かりづらいものです。

今では各科と同様リハビリテーション科もやはり専門性が高く、外来・病棟・訓練室に「リハビリテーション科医」がいることの重要性を感じています。活動にフォーカスするので、医学部では習わない特有の知識が多く、その知識を持っているか持っていないかによって、目の前の患者さんにできるアプローチの選択肢が大きく変わるからです。

例えば、脳梗塞の後で麻痺が残り、硬く突っ張ってしまって動かない足も、装具療法や筋肉の突っ張りの治療と訓練を組み合わせることで、再度歩けるようになる可能性を上げ、また長期的に痛みの出ないスムーズな歩き方に誘導することもできます。ある程度動けるような身体機能の方でも、頭のはたらきの障害(高次脳機能障害)の状況によっては、介護の必要性など実際の生活状況はガラッと変わります。身体機能から高次脳機能、生活環境などを含めた広い視点で患者さんをとりまく状況を判断し、医療として生活の再建を考え、プログラムを立てて実行できるのはリハビリテーション科医特有の専門性だと思います。

究極の家庭医になれる専門職

遠回りはしましたが、麻酔科で学んだことが有用な武器になったことも沢山ありました。卓越しているとは言えないまでも、ペインクリニックで学んだ知識や技術はリハビリテーションの重要な阻害因子である疼痛の治療において役立っていますし、嚥下障害による誤嚥性肺炎をはじめとして、呼吸状態が悪い患者さんを診ることも多いため、呼吸管理の知識なども活かすことができます。麻酔科からリハビリテーション科への転科は少ないケースではないかもしれませんが、実はお互い親和性の高い科なのではないかと思います。

現在私は二人の子供を育てながら時短で働いております。一日中患者さんの訓練に張り付くことはできなくなりましたが、それでもリハビリテーション科医は引っ張りだこで、限られた時間の中でも果たすべき役割は沢山あります。摂食嚥下機能障害の検査・マネージメントや痙縮治療、装具、筋電図など、必要とされているけれどもリハビリテーション科医以外に診られる医師が少ない領域は、困っている病院や施設に非常勤医師として応援に行くという働き方も求められています。子育てをしつつ働きたい女医さんにとっても、リハビリテーション科はさまざまな働き方の可能性がある科ではないでしょうか。

以前、先輩の先生に、「リハビリテーション科医は究極の家庭医になれる専門職だ」と教えてもらったことがあります。病気だけでなく、それによって起こる活動の障害にも目を配れることで、患者さんの「生活の質」にも寄り添え、より患者さんを幸せにして差し上げられるのではないかと思います。家庭医療や地域医療に興味がある方などは特に向いていると思いますが、他の科を志している方でも、私同様一度リハビリテーション科について知ってもらえると、案外その魅力にハマってしまうのではないでしょうか。皆様の見学をお待ちしております。

 

森 志乃

医師
藤田保健衛生大学卒
2013年度入局 国立長寿医療研究センター
2015年 藤田医科大学病院

 

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