リハビリテーション医学・リハビリテーション科医

What is rehabilitation medicine?
What is a physiatrist?

リハビリテーション医学は「活動の医学・医療」

超高齢社会である日本では、2011年時点で2,930万人であった65歳以上の高齢者数が、2040年には1.3倍の3,921万人、高齢化率35.3%に達すると推定されています(2018年総務省統計)。この「長命」社会の実現には、医学の進歩、特に救命技術、急性疾患治療そして慢性疾患管理の進歩が大きな貢献をしてきました。リハビリテーション医学は、このような医学の進歩を背景にして、長命を「長寿」に結びつけるために必須の医学として存在します。もちろんこの「寿」は高齢者のみならず、小児を含む全ての世代の希望でもあります。リハビリテーション医学は「活動の医学」として患者さんや障害を持つ方々の生活を守ります。

リハビリテーション医学は、活動が生存にも大きな影響を与えることを教えてくれます。急性期病院における「安静の害」は広く知られた事実ですが、その防止と治療の実際を振り返ると、今でも課題が山積しています。急性期医療という場面に活動という視点を定着させることが、リハビリテーション医学の使命でもあります。また、活動に関係した種々の症状や障害をまとめて理解したリハビリテーション科医の存在は、それらの問題を抱えた患者さんにとって大きな福音です。そして、機能的帰結予測のもと、練習という方法を駆使して患者さんの生活能力を向上させ、さらに工学的・社会支援システムを組み合わせて社会復帰を実現させる医療形態は、リハビリテーション医学ならではのものです。

日本では既に50年以上の歴史をもつ「活動の医学」であるリハビリテーション医学(rehabilitation medicine)は、19の基本領域の1つとして、臨床に欠くことのできない専門分野です。活動とその問題(障害)に注目するという視点は、臓器指向的な専門性が伝統的である現代医学の中にあって、非常にユニークな専門性です。どんな臓器の疾患、つまりどの科の患者さんであっても、活動の障害がある限りリハビリテーション医学は貢献できます。関連臓器科を横糸とするならば、リハビリテーション科が縦糸となって、患者さんに効率的で快適なセーフティネットを提供しているのです。

例えば「動かない害」は、原疾患に関わらず、不動(immobilization)症候群と呼ばれる深部静脈血栓症、沈下性肺炎、褥瘡など、急性期において生存に直結する問題を生み出し、さらに、廃用(disuse)症候群と呼ばれる筋力低下、関節拘縮、持久力低下など活動性を損なう動物機能の問題をもたらします。リハビリテーション医学はこれらの問題を解決するために、医療の中で物理療法や運動療法を体系的に提供します。

「動かない害」以外でも、リハビリテーション医学は麻痺・痙縮、摂食嚥下障害、排泄障害、疼痛といった活動に直結する症状・障害を診断・評価し、歩行障害、日常生活活動(ADL)障害、失語症に代表される高次脳機能障害など、生活上の問題がいかに出現するか、しているかを分析します。そして、それらに対して理学・作業・言語聴覚各療法による治療を行いつつ、義肢装具療法やリハビリテーション工学を駆使して身体・空間・環境バリアなど物理的課題、役割や家族関係など心理的課題、制度など社会的課題を体系的に解決することで、活動の障害を有する患者さんを包括的に治療し、社会復帰を促進します。

リハビリテーション科医の役割

活動に視点を持つリハビリテーション医療は、リハビリテーション科医に加え、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、義肢装具士、リハビリテーション看護師など、新しい医療専門職を生み出しました。そして、リハビリテーション工学士、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、薬剤師、栄養士など、全てのスタッフが一つのチームとなるリハビリテーション医療では、綿密なチームワークが基本となります。急性期、回復期、生活期を問わず、リハビリテーション医療はチームワークです。その目的はより優れたリハビリテーション医療の提供であり、構成員は全てそのために動きます。外から見ているとリハビリテーション科医と療法士の役割の区別が分かりにくいかもしれませんが、実際の役割分担は明瞭です。効率的で効果的なチームワークを実現するために、リハビリテーション科医はそのリーダーとして活躍します。

リハビリテーション科医は患者さんの医学的状態を把握して、必要な対処を勘案します。ここまでは他科同様ですが、障害が残ると思われる症例では、機能的帰結を考えて治療計画を立てスタッフと共有し、訓練などの経過をモニターしながら、社会復帰に必要なあらゆる手段を体系的に整備し、監督します。この「あらゆる手段」は病理から生活まで広範囲に及び、複雑になるため、患者や家族のみならず、スタッフにも分かりやすく治療計画を説明するストーリーテラーとしての役割も欠かせません。特に、練習量を増やしたり、効率の良い動作を習得してもらったり、患者さんの活動を変えるのには本人の動機付けが必須なので、納得のいく説明が介入成功の鍵となります。
そして、チームそのものをより有能な集団に変えるためのリードも大切です。チームメイトの教育もリハビリテーション科医の大事な役割です。

一般的な医学的知識・手技は医師として当然持っていなければならない他、障害の診断のための嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査、尿流動態検査、筋電図や誘発電位検査などの電気生理学的検査、歩行分析や動作解析、運動負荷、高次脳機能評価、そして、治療としてのボツリヌス毒素療法や除痛のためのブロック療法、電気刺激療法、磁気刺激療法、装具療法、ロボット治療など、活動治療関連の専門的知識や技術を習得します。また、運動学、運動学習、医療心理学などの活動・行動科学に関する基礎的知識が必要です。そして、チームマネジメントスキルも欠くことはできません。

リハビリテーション科医が活躍する場と役割は、急性期における中央診療科のチームリーダー、回復期における主治医、生活期のかかりつけ医、そして、医学部・大学院・大学病院の教師・研究者を兼務する医師など、多様です。この新しい医学・医療を実行(臨床)しながら、後進を養成する再生産(教育)、そして、より有効な手段を創りだす拡大再生産(研究)にも責任を持って対処するのが、リハビリテーション科専門医です。

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